
最近、オウンドメディアという言葉を聞くことが増え、多くの企業が自社のメディアを持ち、情報発信やユーザーとのコミュニケーションに活用するようになりました。
しかし、中には「オウンドメディアを作ったものの数値が伸びない、売上に結びつかない」と悩んでいる人も数多くいます。
オウンドメディアをきちんと運用して伸ばしていくためには、いったどのようなことをする必要があるのでしょうか。
月間200万PVを誇る仕事・マネジメントに関する メディア『Books&Apps』を運営する安達裕哉氏にお話を伺いました。
目次
オウンドメディアブームの終焉とその後
「オウンドメディアは終わった」
2000年代後半からは大手企業がこぞって参入し、一種の「ブーム」の様相を呈していたオウンドメディア。
しかし、その後思ったよりも効果が上がらない、と感じたため撤退する企業が相次ぎ、3年ほど前から「オウンドメディアは終わった」と囁かれていました。
広告・マーケティング業界では知らない人がいないほどの大規模サイトまでが終了に追い込まれている現状は、2000年代半ば頃からはじまった企業と生活者をつなぐオウンドメディアを中心としたコミュニケーション施策に大きな転換期が訪れたことを表しています。
引用:大型オウンドメディア終了のワケとは? SNS時代の最新オウンドメディア戦略(Markezine)
私も仕事柄、様々な企業のオウンドメディアを見ていますが、確かにここ数年間、きちんと運用されてきたオウンドメディアは全体の1割にも満たないと感じます。
いえ、ひょっとしたら、5%にも満たないかもしれません。
それだけ、オウンドメディアの運営は難しいということなのでしょう。
ここ1年、オウンドメディアに取り組む企業が増加
しかしここに来て、明らかに、1年ほど前からオウンドメディアに真面目に取り組みたいという企業が増えていることを感じます。
実際、話を聞いてみると、オウンドメディアへの取り組みを考える会社が掲げる理由は、大きく2つ。
「問い合わせの主体がWebページに移行したので、さらにWebからの引き合いを増加させたいから」
もしくは
「インターネット広告費が高騰したから」
となっています。
理由①Webからの引き合いを増加させたいから
1つ目は比較的わかりやすい理由です。
スマートフォンの普及などにより、人がなにか購買行動を起こす時、電話や営業を呼びつけるよりも、「Webを調べる」という行動が一般的になった結果、ほとんどの会社で問い合わせはWebが主体となりました。
ところがごく普通の、いわゆるホームページしか設置していない企業が、さらにWebからの引き合いを伸ばそうとすると、非常に大変です。
Web上の情報が古かったり、十分な情報が提供されていなかったりもします。
そこで、「ホームページのコンテンツを強化して、引き合いを増やそう」という話になり、さらには、「オウンドメディア、というものがあるらしい」という結論に至るのです。
理由②インターネット広告費が高騰したから
しかし、2つ目はもう少し事情が込み入っています。
2つ目の悩みを持つ会社は、インターネット広告のリテラシーがある程度高い企業で、すでにリスティング広告などを利用して成功体験を持っている会社が多いです。
他社に先駆けてインターネット広告を積極的に活用した結果、大きく業績を伸ばすことができた会社も少なくありません。
そんなインターネット広告のリテラシーが高い会社がなぜ今、広告ではなく、改めてオウンドメディアを検討しているのでしょう。
大きな理由は、インターネット広告における競合の増加です。
例えば、インターネット広告運用会社の台頭により、素人が片手間で成果を出すことは難しくなってきました。
さらにインターネット広告を利用する企業そのものが増加したことで広告の単価が上昇し、費用対効果が合わないと感じる企業も多くなっています。
そのため、「掛け捨て」である広告費の支出が増加し続けることを嫌い、「最終的に自社の資産になる」オウンドメディアで、広告同様の効果を期待できないだろうか、という話になります。
しかし、オウンドメディアはそう簡単ではない
ただ、いずれの理由にせよ、企業がオウンドメディアを行う究極的な目的は「顧客の獲得」です。
しかし、オウンドメディアはそう簡単に成功させることができません。
その大きな理由は、「費用対効果」が短期的には全く合わず、また測定しにくいので、成果が出るまえに諦めてしまう会社が圧倒的多数だという点です。
対比のため「チラシ」について考えてみましょう。
チラシは非常に費用対効果が測定しやすい施策の一つです。
チラシの目的は、通常、短期的な「成約」です。
何枚チラシを刷れば、いくらの売上が上がり、どの程度の粗利が得られるか。そのためにチラシを作ります。
この場合、短期的なチラシの費用対効果だけを考えれば良いので、運営はラクです。
しかし、ご存知の通り「チラシ」をわざわざ見に来る人はそれほど多くはありません。
人はよほどの切羽詰まった事情がないかぎり、売り込まれるのをそれほど好まないからです。
ですので、皆様のホームページをチラシ一色にしてしまうと、見に来る人は激減してしまいます。
そこで、ホームページは「チラシ」だけではなく「記事(コンテンツ)」も掲載します。
記事を見に来る人に、一緒にチラシも見てもらおう、というわけです。また、記事の間にチラシを紛れ込ませてもよいでしょう。
これが、オウンドメディアです。
メディアは、雑誌も新聞もラジオもテレビも、すべて「記事(コンテンツ)」と「チラシ(広告)」の組み合わせでできています。それと同じです。
「記事」を配置し、人を集める。その後、集まった人に向かって、「チラシ」を提供する。
これがオウンドメディアが成約を獲得するまでの道です。
しかし、ここで問題が起きます。
・面白い記事を書くにはどうすればよいのでしょう
・記事は誰に向けてかけばよいのでしょう
・どんな記事が読まれるのでしょう
考えるべきことは数多くあり、しかも記事作成にはそれなりのコストがかかります。
「人を集める」と簡単に書きましたが、人が集まる記事を書くのは簡単なことではありません。
そう考えていくと、単にチラシを刷るのに比べると、短期的な「費用対効果」は全く合わないということがよく分かるでしょう。
オウンドメディアを伸ばすためのいくつかの施策
繰り返しますが、オウンドメディアが実際に成果を上げるには、
・記事を目当てに人が集まってくる
・集まった人へ、記事の中に散りばめたチラシを見せる
・チラシから成約する
というステップを踏む必要があるため、単にチラシを発行するよりもはるかに難しい仕事であることがわかります。
そのため、前述したようにオウンドメディアはそう簡単に成功しません。
では、成功するオウンドメディアは何をしているのでしょう。
私が実際にオウンドメディアを運営し、また多くの会社のオウンドメディアの運営を見ると、ある程度うまくいくオウンドメディアがやっていることは共通しています。
良質の社外ライター獲得を重視する
本質から言うと、「社内で」「書くのが上手い人」を発掘し、メディア運営に当てるのが理想的です。
自社商品をよく知っており、専門知識も豊富だからです。
しかし、本業との兼ね合いもあり、記事を書かせることに時間を使わせるのはあまり好ましくない、という経営者が多いでしょう。
したがって、メディア運営の最も難しい部分は、記事を生産する能力を獲得すること、つまり社外ライターの獲得を重視することにあります。
ちなみに、ライター発掘の手段としてクラウドソーシングがよく使われますが、良いライターが見つかる可能性が高いのは、ブログなどを書いている方の一本釣りであり、そこに時間を使えるかどうかが、メディア運営の鍵でもあります。
広告とオウンドメディアを併用する
前述したように、オウンドメディアは成果が出るまでに多くの時間がかかります。
ですから「今すぐにお客さんがほしい」というニーズには、ほとんど応えることができません。
しかし、全く「今すぐ」の引合いがこないのも、不安になるでしょう。
したがって、広告をすぐに止めてオウンドメディアにシフトする、というよりも、広告とオウンドメディアを併用し、広告→オウンドメディアの流れを少しずつ作ることが肝心です。
オウンドメディアからある程度の引き合いが獲得できるように慣れば、そのボリュームに応じて、広告を減らしていけばよいのです。
SNSやメルマガ、リアルイベント(セミナーなど)の運用を行う
オウンドメディアへのアクセスを検索エンジンに頼り切ってしまうと、Googleの検索アルゴリズムの変更で大きな痛手を追うことも珍しくありません。
また、そもそも検索エンジンから来た「一見さん」は、お客さんになる可能性も低いです。
お客さんになってくれるのは、記事を好きになってくれ、メディアを回遊してチラシを見るようになった、メディアのリピーターの方々です。
したがって、オウンドメディアにアクセスしてもらった人にリピートしてもらうために、SNSやメルマガを確実に運用し、「読者へこちらからアプローチできるしくみ」を確立することが重要です。
また、メディアを読んでいただいている方々へのファンサービスとして、セミナーなどのファンサービスを定期的に行えば、そこから受注につながることも少なくありません。
「メディアさえ運営すれば集客できる」との意識を捨て、オウンドメディアは様々な導線の1つ、と割り切って運営するとよいのではないでしょうか。
ある程度の更新頻度を保つ
「更新頻度の高いサイトはGoogleの検索エンジンから、高い評価を受けることがある」と説明されることもありますが、正直検索エンジンからの流入は記事の質が高ければ、あまり気にする必要はありません。
むしろ重要なのは、リピーターの方々の気持ちです。
新聞もラジオも、テレビも雑誌も、ある程度の更新頻度を保って運営されています。
というのも、情報の最新性を保つことや、最新の記事を期待してリピートして訪れてくださる読者の方々を「新しい記事がない」と失望させないためです。
ですので、オウンドメディアは最低でも週に2、3回。
欲を言えば、毎日1記事更新することが大事です。
そうすることでオウンドメディアは「強いファン」を作ることができるでしょう。
まとめ
オウンドメディアは片手間で成功するほど簡単ではありません。また、ファンを集めて商売に活かせるようになるには、コストと時間がかかります。
要するに「近道はない」のがオウンドメディアです。
ですが、逆に考えれば、コツコツと積み重ねていけば、他の会社と圧倒的に差をつけることができるのもまた事実です。
企業も人も、継続的な努力ができる者はわずかですが、ことオウンドメディアに関する限り、努力は裏切りません。
他に公開されている安達裕哉氏のインタビューはこちらから↓

Tinect株式会社 代表取締役
1975年東京都生まれ。Deloitteにて12年間コンサルティングに従事 。大企業、中小企業あわせて1000社以上に訪問し、8000人以上の ビジネスパーソンとともに仕事をする。
仕事、マネジメントに関する メディア『Books&Apps』を運営する一方で、企業の現場でコンサル ティング活動を行う。
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