【現代の魔法?】「人を動かさない方法」こそが、最も人を動かす

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行動経済学の理論である「ナッジ理論」は、現代の魔法と呼ばれています。

今や日常生活の中でも多く用いられているこの理論が、なぜここまで効果を発揮するのか、そしてどのように活用したらいいのかを解説していきます。

ナッジ理論とは

ナッジ(nudge)とは直訳すると「ヒジでちょんと突く」という意味です。

人を動かしたいとき、「賞金を設ける」や「罰則を定める」といった強制力を働かせることによって行動変容を促すことがあります。

しかしナッジ理論のもとでは、こうした金銭的インセンティブや罰則を用いることはありません。

相手に強制はせず、意思決定の癖を利用することで行動変容を促すというのが、ナッジ理論の基本です。

ナッジ理論は、2017年に理論の提唱者である行動経済学者リチャード・セイラー教授がノーベル経済賞を受賞したことで、世界的に広まっていきました。

最も有名なナッジの事例

1999年。経費削減をしたいと考えていたアムステルダムのスキポール空港は、汚物で汚れた男性用トイレの床の清掃費の高さに悩んでいました。

悩んだ末に出した答えは、「小便器の内側に一匹のハエの絵を描く」こと。

「人は的があるとそこを狙いたくなる」という人の意思決定の癖を利用したのです。

たったこれだけのことで、80%の清掃費をカットすることに成功しました。

この事例は世界中に広がり、あらゆる場所で「ハエ」を目にする機会が増えることとなりました。

日常に潜むナッジ

ナッジは、私たちの身の回りにも多く存在します。

例えば、地面に貼られている足跡のマーク。
順番待ちの列の地面にこのマークを見つけると、ついその上に立ってしまいませんか?

「間隔を空けて並んでください!」と言って強制力を働かせようとするよりも、足跡を描くだけの方が、効果的であるという事例です。

また、トイレに貼ってある「いつも綺麗に使っていただきありがとうございます」もナッジの事例です。
「トイレをきれいに使ってください」と言われると、なんとなく、「みんなも汚してるってことだろうな」という気がしてきます。

しかし、「いつも綺麗に使っていただきありがとうございます」と言われると、「みんないつも綺麗に使っているんだろうな」という気がしてきます。

そしてなんだか自分も、綺麗に使わないといけないという思いまで湧いてきます。

デジタルマーケティングでの活用事例

Web上でも、ナッジは多く活用されています。

・会員登録画面で「メルマガを受信する」にチェックが入っている
今やほとんどのサイトで、「メルマガを受信する」にチェックが入っていますが、これは、「選択肢が存在していても、人はデフォルトを選びやすい」という癖を利用しています。

・有料サービスで、無料でサービスを利用できる期間が設けられている
無料期間中はいつでも解約はできますが、そのまま継続してしまう人も多いと思います。
サービスを受けた時点で、会員となっている状態がデフォルトとなり、それを変える行動を手間だとみなして続けてしまうのです。

・男性の写真の増加と簡単さの訴求によって、男性参加率を増やす
ジェンダー平等運動を行うとある団体では、サイトからの男性の参加率の低さに悩んでいました。
そこでサイトに、「I commit(参加します)」のフリップを掲げた男性の写真を多く載せ、参加宣言をした数を示すカウンターを掲載し、さらに「参加は無料、たった10秒で完了」の説明を追加。
結果として男性参加率は10倍以上となりました。

最も好まれる選択肢は、「選択しない」こと

人は、「選択しない」という選択を好みます。

選択肢がありすぎて選べない、という経験は誰でもあると思いますが、選択肢が増えた分だけ、考える時間や負担が大きく、選択することの責任も感じます。

だからこそ逆に、一番楽で、責任も感じない方法が好まれるのです。
人を動かしたいなら、いかに相手の思考を動かさない、選択させないかが鍵になるという、少し皮肉な結論ですね。

ナッジを考える5つのステップ

ここからは、「自分でナッジを活用していく」という点に焦点を当てていきます。

ナッジを考えるための方法として知られているのが「BASIC」です。
5つのステップで構成されており、流れは下記です。

①行動観察(Behavior)
②分析(Analysis)
③戦略構築(Strategy)
④ナッジで介入(Intervention)
⑤変化の計測と見直し(Change)

大枠は、PDCAと同じです。

しかし、「④ナッジで介入(Intervention)」とは言っても、一体どうやって自分が考えた施策がナッジであると判断すればいいのか…

次はその、判断方法について紹介します。

ナッジ評価のフレームワーク

考えた施策がナッジか、さらに言うと、効果的なナッジかを判断するために使われるのが「EAST」です。
これは、下記の4つの観点からナッジを評価するものです。

Easy

簡単か?

面倒や手間は最小限に。デフォルト効果の活用。

Attractive

魅力的か?

画像や色で注意を引く。お金以外の報酬。損失回避。

Social

社会的か?

みんな同じことをしているという社会規範を示す。
宣言。

Timely

よいタイミングか?

受け入れやすい時期か。
対処方法を事前に計画しておく。

「魅力的ではあるけど、簡単ではないかも…」
「簡単かつ社会的だけど、この施策はタイミング的に今じゃないかも…」
といったことが出てくるようであれば、今一度考え直してみましょう。

「ナッジ理論は効果がない」という批判もある

ナッジ理論は、人の意思決定の癖、すなわち「無意識の選択」に基づいた理論です。

しかしこれに対して、無意識の思考よりも意識的な思考に支配されている可能性が高く、ナッジは人の行動に何の影響も与えていない可能性があるとの反論も存在します。

ナッジ理論は現在、効果的であるという前提のもと、多くの政府や企業で活用されていますが、万能かつ完璧な理論ではないということは、念頭に置いておいていただきたいです。

自分の選択は、誰のもの?

ナッジ理論に関する論争があることは前提にしつつ、この理論は、自分自身の意思決定を振り返るきっかけとして有効です。

今まで自分がしてきた意思決定は、本当に、自分で選択したものだったでしょうか?
その選択をした理由は、それが一番楽だからではないでしょうか?

一度立ち止まって、考えてみることをおすすめします。

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