消費者インサイトとは?事例と調査方法、マーケティングへの活用方法を解説

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清水 雄飛

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マーケティングについて調べていると「消費者インサイト」という言葉がよくでてきます。

この消費者インサイトという言葉、なんとなくイメージはできるけれども、具体的に説明しろと言われると、難しい…。なんて感じる方も多いのではないでしょうか?

情報洪水とも言われる世の中、企業はものすごいスピードで消費者のニーズを満たすことが要求されています。 ただし、消費者の顕在化したニーズに応えようとしても、準備をしている間にライバル企業に先を越され、自社は後手に回ってしまうことも少なくありません。

今の時代は消費者の潜在ニーズを探ることが注目され、そしてそのさらに深くにある、消費者インサイトを捉えることが重要なのです。

「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう」

これは世界で初めて自動車の大量生産を実現したヘンリー・フォードの言葉です。 彼は人々の移動手段が馬だった時代に「消費者が欲しいもの」ではなく「どんな悩みを抱えているか」に注目しました。

そして「速く移動したい」という悩みの解決手段として自動車を製造し、自動車王となったのです。これも消費者インサイトを掴んだ事例の1つです。

本記事では、この消費者インサイトの意味と、それを理解するための実例・実践をするための手法についてを解説していきます。 ぜひ本記事を読んで消費者インサイトの意味を理解するとともに、実践をして自社のマーケティングに活かしてみてください。

消費者インサイトとは?

インサイト(insight)とは、「洞察」や「本質を見抜くこと」のことです。 そして、今回解説をする”消費者インサイト”とは「消費者自身が無意識のうちに抱いている本音や感情」のことです。

マーケティングの世界では、消費者インサイト以外にも、「コンシューマーインサイト」「ターゲットインサイト」などと呼ばれています。 消費者インサイトは、「潜在ニーズ」と近い意味をもちますが、潜在ニーズよりもさらに無意識の深い領域にあるものとして区別されます。

ニーズとの違いはなに?

ニーズは、リサーチを通して、ユーザーの声などを拾い集めて、発見するものですが、それに対して消費者インサイトは、リサーチを通してユーザーのニーズを探るなかで、マーケター側が「ユーザーが本当に求めているものはコレではないか?」と、様々な観点から思考を巡らせて、見出すものです。

ニーズに関しては、SNSなどで「わたしはコレを求めて買いました」という投稿を見つければ、定められる分かりやすい顧客心理ですが、消費者インサイトは、あくまでマーケター自身が自分の洞察力を駆使して見出す「顧客が求めている無意識下で求めているもの」ですので、仮説の域を超えることはありません。

それ故に、消費者インサイトを捉えることは非常に難しいのです。 ニーズについてはこちらの記事で解説しています。

具体例:保湿用化粧水の場合

例えば、保湿化粧水の商品があった場合、顕在ニーズは「肌の保湿をしたい」だと考えられます。

そして、その先の潜在ニーズを探しに行くと「肌のピリつきをなくしたい」「くすみをなくしたい」「自分にあった化粧品を探し続けるのを終わらせたい」などの隠れたニーズがあるとします。

ただここまでは、ユーザーの中に心の中でどこか感じている欲求です。なので、ニーズの域を超えることはありません。

それに対して、インサイトは「ユーザーがまだ自覚していない未来」と捉えるのが良いでしょう。

例えば保湿化粧水なら、「毎日保湿することで、クレンジングをしても肌が荒れなくなり、化粧ができるようになる」「肌の調子が良くなって化粧ノリが良くなって、自分に自信が持てるようになる」のようなものがインサイトになるでしょう。

ユーザーがまだ自覚しておらず、そんな未来があることを想像もしていない未来。それが、インサイトなのです。

消費者インサイトを理解するための事例

消費者インサイトとは具体的にどんなものなのか?イメージを膨らませるために、まずは実際に企業が行った、消費者インサイトの活用事例をご紹介します。

液体洗剤NANOX:視覚以外で汚れが落ちていることを訴求


NANOXはライオン株式会社の販売する液体洗剤です。

この商品の開発当時、ライバル各社の訴求ポイントは「洗浄力」でした。 日本人は洗濯好きな傾向があり、見た目が汚れていなくても、洗濯をする週間があります。

それ故、「汚れが落ちる」ということをアピールしても、どれくらい汚れが落ちているのかが見た目でわからないという問題がありました。

そんな中、ライオンは洗濯にこだわる主婦を集めてグループインタビューを実施し、多くの主婦が洗濯後の衣服のニオイを気にしていることを知りました。 そこから、消費者は汚れが落ちているかを実感するのは、見た目がキレイになったのかではない。

「目に見えない汚れ」が落ちたのかをニオイで判断する。嫌なニオイがしなかった時にキレイに洗えたと認識し、その時の満足感を求めている。

という消費者インサイトを導きました。 その結果、新商品のコンセプトを「ニオイまで落とす洗剤」としてNANOXを販売し、同社の売上高は前年比1.6倍になりました。

ファブリーズ:消費者はニオイを消したい訳ではなかった


P&Gのファブリーズは消臭スプレーとして誰もが知っている商品だと思います。 このファブリーズは「日常の嫌なニオイを消す」というコンセプトで発売されました。

しかし発売当初はなかなか売上が上がらず苦戦を強いられました。 なぜ売れないのか?P&Gの担当チームは直ぐに消費者に直接会って実態調査を行いました。

その結果、猫を飼っている家庭の飼い主はもはや猫のニオイが気にならず、家で喫煙する家庭もタバコのニオイが常習化して、それを嫌なニオイと認識していないことがわかりました。 ファブリーズがコンセプトとしていた「日常の嫌なニオイ」は、消費者の意識からは消えているものだったのです。

商品コンセプトがズレていた状態。 厳しい現実を突きつけられる中、P&Gは巻き返しの戦略を建てるために、逆に当時ファブリーズをよく利用していたファミリー層の母親へインタビューを行いました。

すると、ファミリー層の母親は「掃除を終えたあとに、ご褒美や祝福のような気分でスプレーを噴射している」ということを知りました。

そして、ファブリーズを利用する人のインサイトは、達成感や自分へのご褒美として、非日常感のある香りを楽しむことにあると仮説を立て、「日常の嫌なにおい」を取り除く商品から、「掃除を終えたご褒美」や「日常にフレッシュな香りを加える」というコンセプトの商品に生まれ変わりました。

そして生まれ変わったファブリーズは、2ヶ月で売上が倍増。1年後には2億3000万ドルもの売上になる大ヒット商品になりました。

キットカット:若者にとってのひと休みとは?


チョコレート菓子のキットカットのコンセプトは、“ Have a break, have a KITKAT”である。 日本語に訳すと「ひと休みをKitKatと共に」というような意味になります。

そんなKitKatは、シェアを広げるにあたり、若者のインサイト抽出を行ったとのこと。若者にとってのひと休みは何か?を調査しました。

そこから見えてきたインサイトは、「ストレスがなく、ココロを束縛から解放し、自由になること」いわゆる「ストレスからの解放」が、若者にとってのbreakであるとマーケティングチームは推察しました。

そんな時に、タイミング良く九州の支店長から、毎年1月と2月にKitKatがよく売れていると報告を受け、その理由を調べたところ、受験生をもつ親御さんが、方言である「きっと勝つとぉ!」と関連付けてKitKatを買っていたことがわかったのです。

そこで、受験勉強のひと休み(ストレスからの開放)と受験合格への願掛けをかけ合わせるプロモーションを大々的におこないました。

その結果、今や受験生にKitKatを買うことは日本の文化になり、KitKatは世界100ヶ国以上で販売されているが、毎年1月2月は日本が販売数1位となっている。

インサイトを捉える重要性

あなたは何か商品を買う時に、「なんかピンとこないんだよなー」と思って別の商品を選んだことはありませんか?

多くの人は、そのとき自分がその商品を選ばなかった理由を明確に言語化できません。 なぜなら、自分の中でも顕在化していない意識が原因で、その商品を選ばなかったからです。

市場で勝ち続けるにはインサイトを捉えるしかない

そもそもの話ですが、消費者は自分の本能や根本的な欲求、行動原理を理解していません。

米カリフォルニア大学バークレー校 A・K・プラディープ博士は、彼の著書の中で脳の情報処理の最大95%は「潜在意識」が行っていると言っています。 逆に、私たちの意識の内、自覚することができる顕在意識はわずか5%しかありません。

そして、ジョージア工科大学経営学部 ニール・マーティン博士は”人間の行動の95%を支配しているのは無意識だ。と言っています。 ですので、顕在化している意識である、「ニーズ」を捉えるだけでは不十分なのです。 「ニーズ」は見つけやすいので、どの企業もニーズを満たすために商品改良を行っていきます。

ただし、その先にあるのは、他社との違いがないコモディティ化した市場であり、その次に起こるのはライバルと身を削り合う価格競争です。

そんな未来を回避するには、ニーズではなく、消費者のインサイトを捉えて、消費者自身が理解していない本能や欲求を刺激しながら、その欲求を満たすための方法として、あなたの商品の魅力を伝えていく必要があります。

消費者インサイトを捉えるのは難しい

消費者インサイトを捉えることはとても難しいと言われています。それは消費者インサイトというものが、とても不確かな情報の集合体だからだと言えます。

ここでは、消費者インサイトを調べるにあたり、どのようなところに注意するべきなのかについてをご紹介します。

注意点①インサイトは消費者自身も自覚していない

消費者インサイトとは、その本人も意識していない、無意識下の行動や本音のことを言います。 なので「あなたの本音は何ですか?」と聞いたところでインサイトを見つけることはできません。そこで出てくるのは意識下にあるニーズになります。

インサイトはあくまで調査する側の人間が洞察するものであり、インタビューをしたところで、答えられるようなものではないのです。

注意点②インサイトは見つかるもの・聞けるものではない

インサイトはあくまで洞察するものだからこそ、調査する側の人間の深い思考が必要になります。

インサイト抽出をする上では、消費者インタビューなどをすることもありますが、それもあくまで集めたデータであると捉えて、それを正解とせずに、自分自身で仮設を立てていかなければ、インサイトを抽出することはできません。

注意点③人によって定性情報の解釈が違うため、導き出すインサイトも違う

インサイトを探す中で思わぬトラップがあります。それは調査をする側の人たちでも、インサイトの解釈が違うことがある。ということです。

人によっては、インサイトは洞察するもので消費者側に答えがない。と考えている人もいれば、潜在ニーズと意味を混同している人もいます。 また、インサイトを調査するときの参考データは、消費者の発言や生活環境、行動習慣などの定性的なデータがほとんどです。

定性的なデータを、調査者の洞察を持って定性的にディスカッションするので、とても定義をするのが難しいと言えます。 なので、インサイトを探るさいには、調査者間でこまめに認識合わせの時間を取ることをおすすめします。

消費者インサイトを分析するため調査方法

顧客アンケート・インタビュー

最もポピュラーな手法です。消費者へのアンケートやインタビューを通して、その人の生活・価値観・商品への評価などを調査します。

「消費者インサイトを探るための情報を集めること」が目的なので、インタビューの際には予め仮説を立てたうえで調査をすることをおすすめします。

雑多なインタビューをしてしまうと後で情報を整理する際に、収集がつかなくなってしまいます。

一方で、仮説を重視しすぎてしまうと、自分たちがまだ見つけられなかった消費者の本音が見つけられなくなってしまうので、仮説検証のための質問と、消費者の実態を引き出すための質問は分けて考えることをおすすめします。

具体的には、仮説を元にしてあらかじめ用意した質問をした後に、消費者とフリートークで話してみるといった形式です。 「フリートークの中に思わぬ発見があった」なんて話もよくあることなので、仮説検証用の質問とフリートークと時間配分を考えながらインタビューを実施しましょう。

ソーシャルリスニング

SNSの普及や、Web上での情報発信が一般化した現代で有効だと言われているのが、ソーシャルリスニングです 。

ソーシャルリスニングとは、SNSや掲示板・レビューサイトなどを中心に消費者の投稿内容を収集して、分析する方法のことです。 Web上では個人の体裁を取り繕う必要も無いので、投稿者の本音が反映されやすい傾向があります。

Twitterの投稿や、Yahoo!ニュースのコメント欄、Amazonのレビューなどはリアルなユーザーの生の声が集まっているので、ユーザー心理を調べる際に参考にすることをおすすめします。

この際に、コメント欄などで「いいね」や「参考になった」のようなリアクションボタンがついているサイトでリサーチすることをおすすめです。 リアクションが多くついているものほど、共感しているユーザーが多いということになるので、投稿されているユーザーの生の声の信憑性を図ることができます。

SNSへ投稿する心理について知りたい方は以下の記事をご参考ください。

写真投影法

写真投影法は、言葉にすることが難しい人間の感情を読み解く際に使われる調査方法です。 ある質問に対して、回答者にイメージと合致する写真を選択してもらうことで、回答者の言葉にすることが難しい感情を読み解きます。

例えば「あなたはどんな時にコーヒーを飲みますか?」イメージに当てはまる写真を選んでください。と言われた時にA~Cのどれを選びますか?
【A】を選んだのであれば「コーヒー=朝に飲むもの」というイメージが強く、コーヒーは一日の始まり・自分のスイッチを入れるのような役割を持っているのかもしれません。

【B】であれば、睡魔と戦う仲間や集中力を高めるものと言うような役割、【C】であれば、開放感やリフレッシュというような役割をコーヒーを飲む瞬間に感じている可能性があります。

このように、写真投影法を利用することで、言葉では表現することが難しい定性的な情報を読み取ることができます。

インタビュー・ソーシャルリスニングは基本的に言語化された情報を元にするので、よりインサイトに近しい定性データが欲しい場合には、この写真投影法がおすすめです。

インサイト調査をした後にするべきこと

インサイト調査を行っても、その後に具体的な施策を打たなければ意味がありません。 調査結果を元に「この人が本当に求めているものはなんなのだろうか?」「この人達にとって、この商品はどんな意味をもつものなんだろうか?」ということを考える必要があります。

例えば、コーヒーに関する調査をした時に、下記のような結果となったら、あなたならどうするでしょうか?


このような結果になったら、ユーザーにとってコーヒーは、 「朝仕事に行く前のお供として欠かせない存在であり、一日の始まりを告げるもの」 というような意味を持つと洞察できます。

そんなインサイトに対応したコーヒーが『ワンダ』モーニングショットです。
モーニングショットはそのインサイトを刺激するために、広告のキャッチコピーでは朝専用を強く打ち出し、CMなどでも同じように通勤時のシーンを描写して認知を広げました。

結果として、購入機会を朝に絞ったにも関わらず、異例のヒットを記録しました。

また最近では、在宅勤務者に向けたアンケートで、在宅勤務者の約40%が「仕事とプライベートの切り替えに悩んでいる」と回答している結果があります。さらにアサヒ飲料が2020年に実施した調査で、ブラックコーヒーを飲む理由として「気分転換・リフレッシュできるため」と回答した人が30%を超えました。

これらの結果から、在宅勤務者がコーヒーに求めるインサイトは「仕事のスイッチを入れるもの」と洞察して、『ワンダ』モーニングショットブラック が発売されました。
このように、調査をした内容を元に、具体的な広告のアイディアに落とし込んで行くことでインサイト調査は意味を成します。

ぜひご自身の商品でインサイト調査を行った場合には、それをどのような広告のアイディアに落とし込めるのか?までをセットで考えてみてください。

おすすめの書籍紹介

おすすめ書籍①「欲しい」の本質 人を動かす隠れた心理「インサイト」の見つけ方


この書籍では、このインサイトの定義、見つけ方に留まらず、どうやってビジネスで生かすのかまでが記してあります。 売れなくなっている商品を再生したい、イノベーションを起こす商品・事業を開発したい、今までにないビジネスに生きるアイデアを考えたい。

というような方のために、600件以上の案件の中で築き上げた、フレームワーク、メソッドを体系的に公開しています。

インサイトの概念をもっと深く理解したい。その上でどのようにビジネスに活かすのかをイメージしていきたいというような方にオススメの書籍です。

「思わず買ってしまう」心のスイッチを見つけるための インサイト実践トレーニング


この書籍は「消費者のインサイトを見つけ活用する方法を、才能やひらめきに頼るのではなく、誰もが習得できるように伝授する」というテーマで、インサイトを見つけ出すための具体的なテクニックが沢山記載されています。

隠されたホンネがわかる「発見ツール」、買いたくなるツボを見つける「仮説ツール」、心のホットボタンを押す「発想ツール」のような形で、インサイトを見つけるための各プロセスが解説されています。

そして本の後半には、実録として書籍の前半で紹介されていた、ツールや理論が、具体的に形になっていき、インサイトを見つけ出す一連の流れが記されているので、「インサイトの概念は理解しているが、実際にどのようにすればインサイトを見つけられるのかが分からない」というような方にオススメの書籍です。

他にリスティング広告オススメの書籍と常にチェックしているサイトを下記記事で紹介しています。

まとめ

ユーザーニーズに応えようとして、競合とスピード勝負をするのには限界があります。その競争の先にあるのは、価格や特典でしか差が付けられない商品です。

そんな状況から脱するには、ユーザー自身もまだ自覚していない「消費者インサイト」を探ることが重要なのです。 消費者インサイトを探し、それに合わせた広告戦略を実行することで、ユーザーが新しい自分のニーズに気が付き、その商品を手に取るのです。

競争せず市場で勝つために、消費者インサイトを探るということを実践してみてください。 

Writer

清水 雄飛 記事一覧

デジタルアスリート株式会社
ウェビナーマーケティング部 課長
Google広告 Gold Product Expert
2018年 デジタルアスリート株式会社(旧:株式会社リスティングプラス)に新卒入社。Google、Facebook、LINEなど計20種以上の広告媒体で広告運用に従事。
デジタルアスリート随一の分析マニア。 現在はYouTubeに専門特化部隊として動画マーケティングの研究を実施。
DRMの考え方をベースにYou Tubeの攻略を進めており、担当する案件では他の広告媒体の数値を大きく超える成果をYou Tubeで量産している。
不安・不満などを抱えている方に、素晴らしい商品・サービスを届け、より多くの方に幸せにする事を信条として、広告のプランニング・制作・運用を行っている。
座右の銘は「利他の心」。

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